【獣医師執筆】犬の口の中にできた癌(悪性腫瘍)とは?原因・症状・予防など徹底解説
病気
2020.12.03

【獣医師執筆】犬の口の中にできた癌(悪性腫瘍)とは?原因・症状・予防など徹底解説

ワンちゃんも高齢化に伴い、人と同様に腫瘍、つまり癌となって亡くなってしまう子が多くなっています。癌は、様々な種類があり、かつその発生部位や、進行具合、悪性度などによって、治療法や予後が大きく異なります。

この記事を読むことで、今まだワンちゃんに癌がない場合は、少しの知識をつけることで、ご家族がその予防に目を向ける助けになれば幸いです。

また、今すでにワンちゃんが癌と闘っているご家庭には、主治医の先生のお話の理解を深めることになればと思います。癌は多くの場合、命に関わります。

そのため、獣医師とご家族、ワンちゃんの三人四脚がとても大切です。この記事の内容は、あくまでその子の診断を直接行っていない一獣医師の見解に過ぎませんので、何より主治医の先生のお話を信頼し、治療に臨まれますようお願い申し上げます。

この記事の執筆者

獣医師 高橋 渉
2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。

http://www.iogi-animal.com/

口腔内腫瘍(口にできる腫瘍)について

口は、比較的腫瘍が発生しやすい部位で、犬の悪性腫瘍の6%を占めており、悪性腫瘍全体で4番目に多いとされています。

口の腫瘍は、良性のものでエプリスと呼ばれるものや、その他に悪性のものはメラノーマ、扁平上皮癌、線維肉腫の順で多く発生します。

これらの腫瘍は、見た目は似たものが多いですがそれぞれに特徴があり、それらによって治療法や、予後が全く異なります。まずは、それぞれの腫瘍の特徴について解説いたします。

1. エプリスとは

エプリスとは、歯周靭帯という歯の周りの歯肉からできる良性の腫瘍のことです。エプリスには、様々な種類があり、それぞれに特徴があります。

線維性エプリスとは、正確には腫瘍ではなく、炎症による歯肉の過形成です。多くの場合、歯周病などによって細菌が増えている部位の歯肉が炎症に反応して盛り上がってしまうことで起こります。

線維腫性エプリスは、名前が似ていてわかりづらいですが「腫」という文字がついており、良性の腫瘍に分類されます。ほかにも棘細胞性エナメル上皮腫や、骨性エプリスなどがあります。

この腫瘍が発生しやすい犬種として、シェットランドシープドックが挙げられます。よく起こる年齢は、7歳以上のシニアになってからで、もっとも起こるのは下顎の先の方に起こりやすいです。

この腫瘍は、良性のもので転移はしませんが、棘細胞性のタイプは、侵襲性つまり腫瘍が身体の奥の方まで進行してしまうため、外科による治療の際大きな手術になってしまうことがあります。

2. メラノーマとは

メラノーマは、ワンちゃんの口腔腫瘍の中で最も多く発生する腫瘍で、皮膚や粘膜にある基底層という層にある色素細胞からおこる腫瘍です。

この細胞は、顕微鏡で見るとメラニン顆粒という黒っぽい顆粒を含んでおり、この腫瘍は見た目としては黒っぽかったり、褐色に見えたりします。例外として色素を含まないタイプもあります。

メラノーマは、歯肉に最も多く発生し、リンパ節や肺に転移を起こしやすい悪性度の高い腫瘍です。

腫瘍が起こりやすい犬種

・スコティッシュテリア
・プードル
・ミニチュアダックスフンドなどの小型犬
・ゴールデンレトリバー
・コッカースパニエル

などにも起こりやすいとされています。よく起こる年齢は、11歳以上のシニアの子に起こりやすいです。

3. 扁平上皮癌とは

口に起こる腫瘍の中でネコちゃんでは最も多く、ワンちゃんでは2番目に多い腫瘍です。

扁平上皮癌は、皮膚や粘膜の表皮という層にある表皮角化細胞が腫瘍化してしまったものです。この腫瘍の見た目はさまざまであり、他の腫瘍と同様にしこりのようになる場合もありますし、潰瘍といって赤くジュクジュクしているような見た目になる場合もあります。

転移を起こすこともあり、特に舌、扁桃などに発生した場合は転移しやすいと言われています。

4. 線維肉腫とは

犬 病気線維肉腫は、ワンちゃんの口の腫瘍では3番目に多い腫瘍です。線維肉腫は、コラーゲンを産生する繊維芽細胞が腫瘍化したものです。

ゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーなどの大型のワンちゃんに多い腫瘍で、比較的若い年齢で起こります。

この腫瘍は、皮膚にしこりとして見られますが、皮膚の奥の方へと進行しやすく、転移も起こります。

口腔内腫瘍ができた場合の症状

口に腫瘍ができた場合、その症状は腫瘍ができた場所にもよりますが下記のものが挙げられます。

  • よだれが増える
  • 口が臭う
  • 口から血が出る
  • 食べづらそうにする
  • 食欲低下
  • 体重が減る
  • 口を開けると痛がる
  • 顔の形が変わる
  • 歯がぐらつく

などです。しかし、腫瘍ができた場所がそれほどワンちゃんの生活にとって問題になりづらい部位の場合、かなり大きくなるまで症状を出さないことも多いです。

そのため、動物病院で獣医師がたまたま見つけることも多く、そのときには転移が進んでしまっている場合もあります。

口腔内腫瘍の診断法について

口の腫瘍の診断には、問診、身体検査、画像検査、生検が必要となります。

1. 問診

犬 病気問診では、上記のような症状があるかどうかを伺います。そして、もしある場合はその症状がいつからかで悪化のスピードはどうなのかなど、また、その他に呼吸状態などの異常が見られていないかを確認します

2. 身体検査

犬 病気身体検査では、口腔内の腫瘍の位置や形、色調、顔の形などの確認の他にリンパ節が腫れていないか他の部位に腫瘍がないかなどをよく確認します。

ワンちゃんの中には、なかなか口の中を診させてくれない子もおり、確認が困難な場合は、鎮静をかけて異常を確認しなければいけないこともあります。

3. 画像検査

画像検査は、レントゲン検査と場合によって超音波検査やCT検査を行います。レントゲン検査は、その腫瘍のある部位近くの骨の様子を確認し、その腫瘍が骨に影響を与えていないかなどを確認します。

侵襲性の強い腫瘍の場合は、腫瘍によって骨が壊れてきているのが確認できる場合があります。また、胸のレントゲンを撮ることで、肺への転移の有無を確認します。

超音波検査は、ときに腫瘍がお腹の中の臓器にまで転移を起こしてしまっている場合もありその確認のために行います。

CT検査は、鎮静や全身麻酔が必要になりますがより細かく病変の状態を確認することができるため、可能であれば検討します。

4. 生検

犬 病気腫瘍の診断は、そのしこりの見た目での診断が困難なケースがほとんどです。そのため、生検と言ってその腫瘍の一部ないし全体を取って、診断する必要があります。生検にはいくつかの方法があります。

① スタンプ生検…腫瘍の表面にガラスの板を押し付けて、付いた細胞を染めて顕微鏡で見る方法です。この方法は、ワンちゃんに痛みはほとんどなく、多くの場合麻酔をかける必要もないです。しかし、取れる細胞が少ないうえ、口の腫瘍の診断をつけることは難しい場合が多いです。

② 針生検…針を腫瘍に刺して、針先に入った細胞を染めて顕微鏡で確認する方法です。スタンプ生検より中の細胞を取ることができるため、腫瘍の診断をつけることができる場合があります。
また、リンパ節を同時に針で刺して調べることで、転移の有無を確認することができるかもしれません。しかし、腫瘍のごく一部の情報のみしかわからないため、異常な細胞が見られなくても、異常がないとは診断ができない検査になります。
また口の中に対して、針を刺すことを嫌がる子も多いため鎮静ないし麻酔が必要なケースが多いです。

③ 組織生検…腫瘍の一部ないし全体の組織を切除して、そのものを調べる方法です。多く取れれば取れるほど得られる情報は多く、腫瘍そのものの診断だけでなくどれほど侵襲しているかなどの診断をつけることができます。
また完全に取りきることができれば治療完了となる場合もあります。しかし、全身麻酔をかける必要があり、腫瘍の状態によっては、取りきることができず、再度麻酔をかけて手術をする必要がある場合もあることに注意しなければいけません。

口腔内腫瘍の治療について

口腔内腫瘍の治療法には、外科手術、放射線治療、化学療法、対症療法などがあります。

1. 外科手術

口の中の腫瘍の治療において、最もよく行われるのは全身麻酔をかけての外科的摘出です。転移がない状態であれば広範囲の完全な摘出が最も効果的な治療法となります。

しかし、その腫瘍の部位や種類によっては完全にとるために顎の骨を部分的に取り出さなければいけないことも多く、困難な手術になることも多々あります。

また、完全にとれているかどうかは術中に調べることが難しく、腫瘍が残ってしまった場合や、完全に取りきることができない場合は、その後に再発したり、積極的に放射線治療や化学療法などを組み合わせた治療が必要となる場合もあります。

2. 放射線治療

放射線治療は、放射線を腫瘍に照射することによって腫瘍細胞を減らしたり無くしたりすることができる治療法です。メラノーマや犬の口腔扁平上皮癌、エプリスなどはこの治療に対して反応しやすいとされています。

そのため、外科による切除が困難な場合や、外科を行ったが腫瘍が残ってしまった場合などに行われます。

3. 化学療法

化学療法は、つまり投薬による抗がん剤治療です。口の中の腫瘍に対する化学治療法は、メラノーマや扁平上皮癌などの高い転移率をもつ腫瘍に対して適応になります。

4.対症療法

口の腫瘍は、痛みを起こしたり、感染を起こしたりする場合があります。そのような場合は、痛みの状態に応じた鎮痛薬の使用や感染のコントロールのために、抗生剤の使用を検討します。

口腔内腫瘍のワンちゃんの日常ケアについて

口の中の悪性腫瘍は、悪化するにつれて痛みや物理的な影響によって食欲が低下していくことが多いです。

また、顎を摘出するような外科を行った場合は、食事がとれないないし取りづらくなる場合もあるのでケアが必要になります。下記にそれらの場合のケアの仕方について解説します。

1. 食事のケア

食事のケアはもっとも大切なケアになります。状態に応じてその子その子に合わせて行う必要があります。

例えば、ある程度口が使える場合は、普段使っていたフードを用いればいいと思いますが、腫瘍が大きくなったり、痛みが出たりする場合は、固いドライフードを食べづらくなることが多くなります。

そのため、ドライフードから食べやすい形状の缶詰などに変更する場合があります。
そのような場合は、注意しなければならないのがカロリー量です。一般的な缶詰のご飯は、ドライフードと比較して3分の1程度のカロリーとなっています。そのため、同じカロリーを取るためには、普段の3倍のフードを食べなければなりません。

しかし、なかなかこの量のフードを食べることは困難です。そのため、もし可能であれば私は飼い主さんにお願いして、幼犬用のような高カロリーなドライフードを細かくして缶詰フードに混ぜていただく工夫をしてもらいます。そうすることでカロリーを摂取してもらい、可能な限り体重の低下を避けるようにします。

もし、口が使えなくなってしまった場合などは、病院で鼻からや喉、胃などにカテーテルを挿入してもらい、そこから目の細かい缶詰や液体のフードを与えてもらうことで、栄養を取ってもらいます。

2. よだれのケア

口の腫瘍ができるとよだれが垂れやすくなってしまう場合があります。また、口の特に下顎の腫瘍を摘出した場合、口の形が変わって、よだれが垂れてしまいます。そして、口の周りや周囲が汚れてしまい、皮膚炎が起こることが度々あります。

そのような症状がある場合は、可能な限りこまめに綺麗なコットンやガーゼで拭きとるようにし、また必要に応じて動物用の消毒薬を用いたり、細菌が発生するようであれば抗生剤の軟膏などを用いるようにしましょう。また、口の一部が乾燥する場合もあり、そのような場合はワセリンなどを用いて乾燥の予防に努めましょう。

口腔内腫瘍の予防について

口の腫瘍の最大の予防は、日ごろからのオーラルチェックです。初期の口の腫瘍が小さいうちに発見することでその後の治療がは大きく異なります。

悪性度の高い腫瘍でも早期に発見し、転移を起こす前に治療することで根治を目指すことさえできます。しかし、大きくなり深く侵襲してしまっている場合は、外科も負担の大きなものになりますし、その後の他にも放射線、化学療法が必要になる場合もあります。

全身に転移をしてしまっている場合は、治療の選択肢は極めて限られてくるでしょう。日頃からワンちゃんの口に関心を持ち、歯のケアとともに日々観察することが早期発見と早期の治療につながります。

まとめ

口の腫瘍は、様々な種類があり、それぞれで治療法が異なります。

早期に発見し、動物病院で診断治療へと早期に進むことで、ワンちゃんの寿命を延ばし、生活の質をより良いものにすることができるので、日々ワンちゃんの口の中の観察を行っていきましょう。

ABOUT ME

獣医師 高橋 渉
2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。

http://www.iogi-animal.com/